性犯罪関係の刑法等の改正について
令和5年の通常国会で、性犯罪に関する刑法その他の法律が改正され、令和5年7月13日から施行されていることは、報道もされており、ご存じの方もいらっしゃると思います。
法務省がホームページで改正法の概要等を説明していますので、その内容を簡単に説明しますと、これまで強制性交等罪や強制わいせつ罪と規定されていたものが不同意性交等罪や不同意わいせつ罪に名前が変わりました。
また、それぞれの構成要件についても、これまで規定されていた
① 暴行又は脅迫 に加えて、
② 心身の障害
③ アルコール又は薬物の影響
④ 睡眠その他意識不明瞭な状態
⑤ 性的行為がされようとしていることに気づいてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間にゆとりがない場合
⑥ 予想と異なる事態との直面に起因した恐怖や驚愕
⑦ 虐待による無力感や恐怖心などの心理的反応
⑧ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
のいずれかを原因として、性的行為に同意しない意思を形成し、表明し又はその意思どおりにすることを困難な状態にさせ、あるいは相手がそのような状態にあることに乗じて、性交等やわいせつな行為に及んだ場合、婚姻関係の有無にかかわらず処罰の対象になり、処罰の対象がより明確になりました。
また、わいせつな行為ではないと誤信させるほか、人違いをさせること、又は相手がそのような誤信をしていることに乗じて性交等やわいせつな行為に及んだ場合も処罰の対象となり、その面でも処罰の対象がより明確になりました。
そして、先ほどの構成要件に当てはまらない場合でも、相手が13歳未満である場合や、相手が13歳以上16歳未満であって行為者が5年以上年長である場合、性交等やわいせつな行為に及ぶと処罰の対象になります。
なお、公訴時効についても改正されており、不同意性交等致傷罪の他、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪の公訴時効が改正前から5年ずつ延長され、それぞれ20年、15年、12年になりました。
また、被害者が18歳未満である場合は、被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間が公訴時効期間とされます。
例えば、当時10歳の被害者が不同意性交等の被害に遭った場合、公訴時効の完成は、不同意性交等罪の15年に、被害者が18歳になるまでの8年間が上乗せされることになるので、公訴時効は被害者が33歳に達する日まで完成しないことになります。
ところで、これまで他人の下着姿を盗撮した場合、大阪府ならば大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例、他の都道府県でもいわゆる迷惑防止条例が適用されていました。
また、18歳未満の児童に対する盗撮の場合、児童買春等処罰法が規定するひそかに児童ポルノを製造する罪等が適用されていました。
しかし、迷惑防止条例は都道府県ごとに規定が異なる上、児童ポルノ製造罪の保護の対象も18歳未満の児童に限定されており、これらの条例や法律が適用されない盗撮の事例もあり得ます。
そこで、今回、これまで適用されなかった事例も含め、盗撮行為やそれに関連する行為を処罰するため、性的姿態撮影等処罰法が制定されました。
この法律では、
① 他人の性的な姿を盗撮するなど、一定の態様、方法で撮影する行為
② ①の撮影行為により生まれた記録の提供や公然陳列
③ ①の撮影行為により生まれた記録の、提供や公然陳列目的での保管
④ 他人の性的な姿を、一定の態様、方法で、ライブストリーミングによる不特定、多数の者への影像の配信
⑤ ④の配信行為により送信された影像の記録
を処罰対象としています。
今回の刑法等の改正は、性犯罪に関して新たな規定が定められるなどしており、実務的にも影響が大きいと思われます。
また、今後もさらなる法改正が予想されるところでもあり、引き続き動向を追っていきたいと考えています。